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よい歯と食育インタビュー

インタビュー第1回「歯科と食育(前編)」

 今回の対談は、社団法人日本栄養士会専務理事の二見大介先生と、株式会社ヘルシーピット代表取締役の杉本恵子様にお話を伺いました。
 お二人とも管理栄養士でいらっしゃいますが、特に、二見先生は前職は女子栄養大学教授として、食育の推進に貢献されてこられました。一方、杉本様は民間企業の代表取締役として、また、メディアへのご登場を含め多数の講演活動をなされるなど、多方面でご活躍なされています。

今日は、「歯科と食育」というテーマでお話を進めていきます。
まず、最近、食育という言葉がメディアで取り上げられていますが、食育とはどのようなものかということを、二見先生からご説明いただきます。

二見理事…

 食育については、殊更今取り上げられ出したということではないんですね。私達、管理栄養士、栄養士はその活動の中心に栄養の指導ということを位置づけているわけです。栄養指導と言ったり、栄養教育と言ったり、時には食事指導と言ったりしてきましたが、いずれにしてもそういったことが、今日的に言えば「食育」という言葉で代表されるのだろうと。

一方、だからといって、食育が本当に食育基本法等にのっとり、国民各層に徹底しているかというと、現状では必ずしもそうなっていない部分があるわけです。 そこが今回、歯科の領域の先生方から見ると、食べることでありながら、歯科との関わりが非常に薄いというようなご指摘があるわけでして、この辺を解決していくのが、私達の役割でもあると思っております。

では、杉本様から、なぜ今「食育」が注目されているのかということを、また、「食育」というものが一般的にどういったものかという点をご説明いただきたく思います。

杉本氏…

 メタボリックシンドロームが話題になっているように、今、生活習慣病が蔓延していますが、食事を改善することによって、予防改善できるのではないかということがポイントになっていると思います。それは、管理栄養士、栄養士に何が出来るかということにつながると思います。私も16年前に、自分で独立して栄養士のネットワークの会社をやっていますが、やはり今、本当に健康というか、食べることに関する仕事がどんどん増えてきています。この背景には、どういう物を食べたら良いか、自分が元気でいる為にはどうしたら良いかということを、日本中、世界中の人が考え始めているということがあると思います。ですから、日本でも食育基本法というものを作って、こんなことやりましょうと言っているんです。

当たり前ですが、赤ちゃんが生まれてから死ぬまで食べ物を食べないと、死ぬんですよね。ですから、食べ方が重要ですね。最近の子供達は、柔らかい物を好んで食べますが、硬い物をよく噛むと味が出てくることを知ると喜びます。また、85歳の老人で歯がちゃんとされている方は、お元気ですね。その方に聞くと、「味がわかる」と言うのです。例えば、ニンジンを出せばその味がわかる、ピーマンを出せばその味が分かる。つまり、食というのは、よく噛んで味を感じることが美味しさにつながるのです。結局、難しいことを言っても駄目だと思います。

食べた時に美味しいと感じることが、食べ続けることになるので、私はそういうことを栄養士として指導していきたいなと思っております。

食を楽しむということも、食育なのですね。
ところで、食育基本法という法律も成立しましたが、そのことで、世の中の食育に関する活動が動きだしたというご実感はございますか?

二見理事…

 当然それはあります。人々の話題になるようになった。これはやはり法律が出来、役所的ではあるけれど、全国にそのことが徹底されていき、わが国のそういう仕組みというのは役所が関わることにより、そのことがより徹底されて流れていきますので、これは大きな力だと思います。このように、今まさに健康が注目されだし、健康を扱うことが1つの商として成り立つようになって来ているということなんだと思います。

さて、現場で「食」「健康」に関わっているお二人ですが、食生活の乱れなど感じられますか?

杉本氏…

 私は色々と食品開発等やっていますが、やはり随分変わってきたなと感じます。皆さん食べることに興味を持ち始めています。でも、先程お話したように、自分で分かっているつもりでも分かっていないことが多い。指導すると「あっ、そういうことなんですね。」とか、ではこんな食べ方をしたらどうですか?と言いますと、「あっ、分かりました」と言ってくれるのです。私達栄養士が、難しいことではなく、簡単な事をピンポイントで言ってあげることで、日本国民全体の食が改善し、健康につながるのだと思います。
先程、二見先生が健康がビジネスになるとおっしゃっていましたが、本当にそうだと思います。私は16年前に会社を始めたのですが、その頃は、本当にこの先どうなるかと思いましたが、5,6年前くらいから、かなりビジネスとして幅が広がってきました。これは、法律になる前からですが、今は国が動いているということもありますし、国が動けば 皆が動くということです。このような状況の中、私達専門家としては、正しい情報を伝えていくべきかなと思っています。

二見先生と、杉本様の今までの具体的な活動内容をお聞かせ下さい。

二見理事…

 私自身は、大学卒業後東京都の衛生局に就職しました。主な職場は、都立病院に約10年程おりました。その後、公衆衛生畑に転じましたけれど、いずれにしても私達栄養士がやる栄養教育が楽しくないというのが、私の実感でした。例えば、スポーツに興じる人々は本当に楽しそうにやっているわけです。そういう意味で運動するという事は、多くの人を引き付ける魅力を多く持っている、しかし、栄養教育を受けた人たちが、また二見の栄養教育を受けたいと言い足を運んでくれることは、ほとんどないのです。病院の場合は、次の外来の約束を取れれば、患者として必ずお客様として来るわけですが、公衆衛生畑になりますと、特に、どこか具合が悪いというか、ご本人にその必要性が高くない限り、一回限りの栄養教育で終わってしまうわけですね。栄養教育が一回で終わるということは普通はないのです。きちんと食生活の変化を評価をしていかなければならないのですから、それには楽しい栄養教育を目指し、継続的にその改善の経緯を見ていかなければ駄目だということを私自身感じ、その後、職場を大学に移しました。大学で、学生達に投げかけたのは、楽しい栄養教育のあり方とその評価方法をどうするかということでした。そのような仕事を18年程やりまして、また改めてこの栄養士会に職を求めたわけですね。それは、大学でやってきたことを、実践の場で、全国ベースできちんと検証したいというようなことがありましたので、あえて大学を辞めて、こちらにきたわけです。その辺のことが今回の食育ということと、大いに関連があるにではという風に思っています。

楽しい栄養教育とおっしゃられましたが、具体的にはどのような活動をなさったのでしょうか?

二見理事…

 一つは、教材作りです。今までの教材はどちらかというと、主にパンフレット、リーフレットといった平面的な動かない教材でした。しかし、もっともっと立体的で動的な教材であれば、注目を集める度合いははるかに違ってきますし、古くは紙芝居などが使われていたのですが、それよりインパクトのある物の教材開発を手がけてきたわけです。その1つがエプロンシアターですが、全国ネットで使われ出し、多くの人々の関心を集めました。

杉本様は楽しい栄養教育についていかがですかお考えですか?

杉本氏…

 私は、一般の方達に栄養相談、講演会など色々行っていますが、大学の授業のように行ってしまうと、一般の方はつまらなく感じるようです。やはり楽しくないと駄目ですね。私は年間100回ぐらい講演等しますが、例えば地域の方がどのようなものを食べているか等を探って、参加者が楽しめるように配慮しています。

また、私が講演する場合、壇上が多く、上から物申すようになりかねないので、壇上から降りて一人一人のテーブルに行くようにしています。そして、例えば「赤、白、黄色、緑、黒」の食材を言ってもらいます。「赤はトマト、人参」など言ってもらうと、講師との一体感が出てくるようです。そして、会場中が私と一緒になって健康を考えよう!といった感じに変わっていきます。身近な存在にならないと難しいと思いますので、そのようにしています。
その他にも、楽しい栄養教育としては、模擬スーパーマーケットがあります。

これは、テーブルの上に100アイテム程の食材の紙を用意して、100円均一のかごを持ってもらい、子供から老人まで参加してもらいます。主婦なら、今日の予定している夕飯の食材を籠に入れてもらい、子供なら、いつも皆が食べている好きな食べ物を入れて下さいと言います。入れ終わったら、「赤、白、黄色、緑、黒」の紙の上に、自分の買ってきたものを並べてもらいます。そうすることで、皆さん、「あれ!これが足りない」と気付くのです。子供に「足りない色は何?」と聞くと、「緑や黒がない」と答えます。「じゃあ、緑は何?」と聞くと、「ピーマン!」と答えます。食べる時にはこの5色を確認するように意識付けるのです。

幼稚園生はこれを一週間やりますと、家に帰るとお母さんに「緑がない、黄色がない」と、言い出します。

その結果、今度は、興味を持たれたお母さん方を相手に講演するということが多いんです。 子供の頃から実際の体験を通して学習するとよく分かるのです。コンピューターでプリントアウトした物を渡すよりも、実際自分で手に取ってみると良く分かるんですね。

多くの人は、少し気をつければ改善できますし、意識すればもっと良くなります。 基本的には、二見先生のおっしゃったように、楽しくやらなければ駄目です。

あれこれ駄目と言ってばかりではいけないし、健康になるためには色々な食材を食べて運動しないといけないのです。とにかく、楽しく教えること、個性を生かした方法で栄養士はやっていく必要性があります。

楽しく、積極的に食育を勧めて行くことは出来ていない面があるということですね。

二見理事…

 そうですね。ただ最近は、子供達を対象にしたところでは、随分変わってきましたね。文部科学省などは、色々論議はあるにしても、生活科学的発想で総合学習をやっていますよね。その課題に「食」が取り上げられることがあります。そうすることで、教職にある方々がそれを切り口とした時、やはり楽しい教育のありかたを根底におくことが多いですから、机上の空論ではなく、実際活動を通じた総合学習の中から随分芽生えて来てはいると思います。