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よい歯と食育コラム

第6回メタボリックシンドロームの予防と対策

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プロフィール

産業医学研究財団/アークヒルズクリニック・溜池山王クリニック
医学博士 工藤一彦

 医学博士。防衛医科大学講師、女子栄養大学教授などを経て現在、慶友生活習慣病研究所所長。体力・栄養・免疫学会理事、日本循環器管理協議会評議委員。アークヒルズクリニック・溜池山王クリニック

これまでメタボリックシンドローム(MetS)につき、いくつかの観点から概説してきた。しかしながら、皆様すでにご承知のように、MetSについては、現在批判や反論がなされてきている。また、本年4月より義務化された“国家的メタボ退治”とも称せられる特定健診・特定保健指導についても、既に批判的見解も多い。
 最終回では、これらについて述べまとめとさせていただきます。

MetS診断基準等についての問題点

腹囲85cmを基準に診断された場合、男性のメタボリックシンドロームは心血管疾患発症の有意なリスクにならないという発表が見られる。
 九州大の清原裕教授らは、2006年の福岡県久山町の集団疫学研究で、男性で腹囲85cmを基準に診断された腹部肥満とメタボリックシンドロームはどちらも心血管疾患発症の有意なリスクにならなかったと報告した。しかし、男性で腹囲90cmを基準に診断した場合はどちらも心血管疾患発症の有意なリスクになったとした。
 一方、腹囲90cmを基準に診断された女性のメタボリックシンドロームは、多くの他の高リスクの女性を見逃すことになると警告している。女性では腹囲基準値を90cmとしても80cmとしてもメタボリックシンドロームは心血管疾患発症の有意なリスクになったが、心血管疾患の発症は腹囲80〜90cmの女性に過半数が集中しており、基準値を90cm以上に設定すると多くの高リスクの女性を見逃すことが、同じ、久山町研究で示された。
 MetSの臨床的意義の重みづけの問題も議論されているところである。メタボリック症候群でないと診断された人のほうが、メタボリック症候群と診断された人よりも心血管疾患の危険度が高い場合がいくらでも想定されると指摘する研究もある。Grundyは「MetSそれ自体は、10年間程度の短期間のリスクを評価するための道具ではなく、数十年間の長期リスクを評価するための道具である」と述べている。これは、MetSが独立した一疾患であるということに対する反論でもある。
 血糖値、血圧、血清脂肪値に関する基準についても、それぞれ多くの見解が出されており、現在の基準の修正を求める意見もある。すべての診断基準については厚生労働省も見直し検討を行っている。

 以上、MetSという言葉自体が、少し先走りした感は否めない。そのために混乱や異論があり、確固とした基盤が構成されるには、もう少し時間が必要なのかもしれない。

「特定健診・特定保健指導」の問題点

 第一に問題とされている点は、健診対象者の年齢である。国は40才から74才までのすべての人を対象としているが、メタボ対策というならば40才では遅すぎるという考えが多い。実際、小児学会では暫定案ではあるが、15歳未満で腹囲80cm以上等の基準で「小児メタボ」を提唱している。身体は時間的に不連続ではないので、20代〜30代でも明らかな肥満があれば、「若年メタボ」として注意を喚起すべきである。
 すなわち、MetSは中高年特有の疾患でなく、その芽は既に小児期から始まり、若年、壮年期を経て中高年期で顕在化してゆくのである。このことは、短期間ではなく長期リスクの評価としてMetSの意義あるという前述のGrundyの主張にマッチする。したがって、特定保健指導が行われるわずか半年間では、改善や成果を得にくいという考えがある。
 特定健診では、事務処理があまりに繁雑なことも問題とされている。受診者本人へも結果の通知が義務付けられるが、保健指導を行うケースでは、夜間休日を問わずEメール、ファクシミリ、電話等で相談に応じられる体制を整備することが求められる。
 受診率が65%以下や、特定保健指導による改善の成果が充分でない保険者に対し、「ペナルティー」が用意されていることも論議を呼んでいる。「ペナルティー」とは、「後期高齢者医療制度」支援金に関し、保健指導などの実績が低い健保組合は、10%の負担金が増える。
 今後の、後期高齢者医療制度の転変とともに、健診制度自体の混乱も予想されるところである。

歯科とMetS

MetSと歯周病をはじめとした歯科疾患との相互関連については、ご承知のように多くの業績があり、エビデンスも明らかになってきている。しかしながら、医科のほうが、それに関する情報や知識は乏しいといわざるを得ない。

 例えば、歯周病検診の結果も、医科関連にどのように反映されるか未知数である。歯科・医科共同の戦略的なシステムづくりが期待される。例をあげれば、将来的に歯周病予防ワクチンの実施なども連携のもとに行われることを期待したい。また、動脈硬化の成因として、感染症は重要であるという考え方が広まり、口腔はまさに感染の入り口・場所としてその重要性が再認識されている。

 医科である私は、ご多分に漏れず歯科の知識については真に疎いが、毎日の診療ではなるべく口腔内を分からぬなりにチェックすることを習慣としている。同時に、冠状動脈硬化症などの虚血性心疾患の血液検査項目には(高感度)CRPを、炎症性反応チェックの必須項目としている。

 まことに不十分な概説をお読みいただき有難うございました。歯科関係の皆様方も、医科における最近の知見や、血液検査や心電図などのあらましなどについては、今にもまして積極的に情報収集されることが有用であると考えます。
 今後とも、歯科関係の皆様とともに、微力を尽くしてゆきたいと思っております。