よい歯と食育コラム
第1回 よい歯と食育 生活習慣病専門医の立場から
プロフィール
産業医学研究財団/アークヒルズクリニック・溜池山王クリニック
医学博士 工藤一彦
医学博士。防衛医科大学講師、女子栄養大学教授などを経て現在、慶友生活習慣病研究所所長。体力・栄養・免疫学会理事、日本循環器管理協議会評議委員。アークヒルズクリニック・溜池山王クリニック
メタボリックシンドロームの概念の普及により、「何を」「どのくらい」食べればよいかという点については多くの関心が集まっている。しかしさらに重要な点は「どのように」食べるかであり、また摂食という行為の第一のプロセスにある「咀嚼および口腔内環境」については、まだまだ関心が低いといわざるを得ない。
多くの内科疾患が、歯・口腔の状態や食育とに密接に関連している。きちんとした食育は、健康の増進と維持のために不可欠であり、若年者から中高年にいたるまですべてのライフステージにおいて重要視されるべきである。
歯周病と動脈硬化;
歯周病菌は、全身疾患である高血圧、糖尿病、心疾患、動脈硬化、早産、ガン、胃炎・胃潰瘍、誤嚥性肺炎、心内膜炎、心筋炎、糖尿病等の発症に深く関連していることが明らかにされてきている。
米ハーバード大の研究者らは、歯周病が心筋梗塞や脳梗塞の危険性と関係があるというデータを発表した。(2003年)
研究チームは、冠動脈疾患や糖尿病にかかっていない40-75歳の健康な男性約4万人を12年間にわたり調査し、歯の本数(通常は32本)と病気の関係を分析した。この間、349人が脳梗塞になったが、歯が25本未満の人たちは、25本以上残っている人たちより脳梗塞になる危険が約1.6倍高かった。
この数値は喫煙や肥満、飲酒など、脳梗塞を起こすほかの危険因子に個人差があるのを考慮したうえで算出されている。その他、歯周病菌が動脈硬化部位に見つかるということは、幾つかの研究グループから報告されている。たとえば、腹部動脈瘤の部位に、歯周病菌の1種であるTreponema denticolaが発見されている。
ほかにも、心臓の冠状動脈狭窄部位に歯周病菌が存在するかどうか、51人の患者を対象に調べた研究では、5種類の歯周病菌のDNAが狭窄部位の血管内壁プラークから見つかっている。冠状動脈狭窄部位からの歯周病菌の検出率は、患者の歯周ポケットの深さと関連することも分かった。
別の研究からは、60歳未満の人々が、歯を支える骨の損失が進行した状態の歯周病があると、冠動脈心疾患のリスクが6.6倍と高くなることが報告されている。
歯周病菌はどのように動脈硬化性疾患の発症や進展に関わっているのであろうか。一般的には、歯周病菌が作り出す内毒素が、好中球やマクロファージといった免疫細胞に取り込まれて血液中を運ばれ、血管壁などで炎症性サイトカインの産生を促し、コレステロールの沈着や細胞傷害などを起こすのではないかと考えられている。
さらに詳動脈硬化は「マクロファージ」が、変成した「LDLコレステロール」を次々に取り込み蓄積するのが大きな原因だ。歯周病菌がつくる2つのタンパク質分解酵素に注目が寄せられているこの酵素はLDLコレステロール表面のタンパク質を分解して変成させることで、マクロファージが取り込みやすくしているようだ。
メタボリックシンドロームと咀嚼;
メタボリックシンドロームは、過剰な中性脂肪が内臓脂肪として蓄積し、悪玉サイトカインの分泌が増加し、最終的には脳血管障害や虚血性心臓病を高い危険率で招く疾患である。
血糖値の上昇は、「糖尿病予備軍」も含めて診断の基準の柱になる。高血糖は、過剰な等質摂取にインシュリンの反応が適応できない(インシュリン抵抗性)状態によりもたらされる。これに対しては、炭水化物量摂取の制限や、運動によるエネルギー消費量の増加が効果的であるが、忘れがちなことは「十分な咀嚼」が血糖値を抑える働きがあることである。
咀嚼が不十分であれば、食物が胃腸に短時間に多量に到達し、「満腹」の信号である血糖値の上昇が遅れることになる。つまり「早食いは、大食い」であるのはこのためである。
また、血糖値の上昇で病理的に問題となるのが「食後高血糖」である。食後の血糖値は膵臓からのインシュリン分泌を傷害し、また動脈硬化の進み方を促進するとの研究報告がある。咀嚼回数を多く、ゆっくり時間をかけて食事をするという習慣が望ましいことになる。 血糖値の上昇が緩やかである食材は、一般的にテクスチュア(硬さ)が大きく、咀嚼回数の多目の食材でもある。
このようにメタボリックシンドロームでは、食事時間もふくめて「どのように食べるか」が、予防の重要な決め手のひとつになる。
工藤先生著書
内臓脂肪を減らす本 主婦と生活社発行